フラワーアレンジメントに欠かせないアイテムとして知られる「オアシス(フローラルフォーム)」。お花を好きな角度で固定でき、吸水力も高いため、初心者からプロまで幅広く利用されています。しかし、近年では環境への影響が懸念される声も聞かれるようになりました。「オアシスを使わずにアレンジメントを楽しみたい」「急に必要になったけれど、代わりになるものはないだろうか?」と考えている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、そんな「オアシスの代わりになるもの」を探している方に向けて、環境に配慮したサステナブルなアイテムから、いざという時に役立つ身近なものまで、様々な選択肢を詳しくご紹介します。それぞれの特徴や使い方、メリット・デメリットを分かりやすく解説するので、ご自身の目的やスタイルに合った最適な花留めを見つける手助けになるはずです。
オアシスの代わりになるものとは?知っておきたい基本

フラワーアレンジメントで当たり前のように使われているオアシスですが、その代わりを探す前に、まずはオアシス自体のことや、なぜ代替品が注目されているのかを知っておきましょう。
そもそもオアシス(フローラルフォーム)とは?
オアシスとは、切花を固定し、給水するために使われる緑色のスポンジ状の資材のことです。正式名称は「フローラルフォーム」といい、「オアシス」はスミザーズオアシス社の商品名ですが、一般名称として広く浸透しています。
主な原料はフェノール樹脂とホルムアルデヒドで、細かく連続した気泡が無数にあり、その構造によって自重の何倍もの水を吸収・保持することができます。 これにより、花瓶のように水を張れない浅い器でも、花を瑞々しく保ちながら、剣山などを使わずに自由な角度で固定できるのが大きな特徴です。その利便性の高さから、フラワーショップのアレンジメント制作や、フラワーデザインのレッスンなどで広く活用されています。
なぜオアシスの代わりが必要とされているの?
便利なオアシスですが、近年その環境負荷が問題視されるようになり、代替品への関心が高まっています。
- マイクロプラスチック問題
オアシスの主成分であるフェノール樹脂はプラスチックの一種です。使用後に崩れて細かくなったオアシスは、下水に流されると浄化施設で完全に取り除くことが難しく、マイクロプラスチックとして川や海に流出する可能性があります。 海洋に流出したマイクロプラスチックは、有害な化学物質を吸着しやすく、それを誤って食べた海洋生物の体内にも蓄積されてしまいます。この問題は、生態系全体に深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。 - 廃棄の問題
オアシスは自然分解されないため、廃棄されるとゴミとして残り続けます。 燃やすと有害ガスが発生する可能性もあるため、多くの自治体では可燃ゴミではなく不燃ゴミとして分別されますが、最終的には埋め立て処分されることになります。
このような背景から、環境に配慮するフローリストやデザイナーを中心に、オアシスを使わない「オアシスレス」「フローラルフォームフリー」という動きが世界的に広がっているのです。
代用品を選ぶときのポイント
オアシスの代わりを選ぶ際には、何を重視するかによって選択肢が変わってきます。以下のポイントを参考に、ご自身の目的や用途に合ったものを選んでみてください。
- 固定力
花の茎をしっかりと支え、思い通りのデザインを維持できるかどうかは最も重要なポイントです。特に、茎が太く重い花材を使う場合は、安定感のあるものを選ぶ必要があります。 - 保水性・給水力
切り花を長持ちさせるためには、十分な水分供給が不可欠です。オアシスのように、それ自体が水を保持できるタイプなのか、それとも花瓶のように器に水を溜める必要があるタイプなのかを確認しましょう。 - 繰り返し使えるか(サステナビリティ)
環境負荷を減らしたい場合は、何度も繰り返し使える素材がおすすめです。剣山やワイヤー、ガラス製品などは、初期費用はかかりますが、長く使えるため経済的でもあります。 - 手軽さ・コスト
急に必要になった場合や、とりあえず試してみたいという場合は、100円ショップやホームセンターなどで手軽に購入できるものが便利です。コストを抑えたい場合も同様です。
環境に優しい!サステナブルなオアシスの代替品

環境への配慮を第一に考えるなら、繰り返し使えたり、自然に還る素材を選んだりするのがおすすめです。ここでは、サステナブルなフラワーアレンジメントでよく使われる代替品をご紹介します。
剣山(けんざん)
剣山は、金属の台座にたくさんの針が上向きに固定された、日本の華道で伝統的に使われてきた花留めです。 重さがあり、器の底に置くだけで安定します。最近では、黒やゴールド、シルバーなどのおしゃれなカラーのものや、錆びにくいステンレス製、一本ずつ分解して洗えるものなど、様々な種類が登場しています。
メリット
- 繰り返し半永久的に使える
- 茎をしっかりと固定できる
- 針が細いため、茎の断面を潰しにくく水の吸い上げが良い
- 花や葉を少なく生けても空間の美しさを表現できる
デメリット
- 針で怪我をする可能性がある
- 重いため、ガラスなど繊細な器には注意が必要
- 深い器には使いにくい
- 針の間に汚れが溜まりやすく、手入れが必要
ワイヤー(チキンワイヤー、金網)
チキンワイヤー(亀甲金網)や園芸用のワイヤーを丸めて器の中に入れ、花を固定する方法も人気です。 ワイヤーの網目に茎を引っ掛けたり、通したりして使います。ワイヤーは柔らかいので、器の形に合わせて自由に変形させられるのが大きな魅力です。
メリット
- 器の形を問わず使える
- 軽くて扱いやすい
- ナチュラルで無造作な雰囲気のデザインを作りやすい
- 繰り返し使える(ただし、錆びる場合もある)
デメリット
- それ自体に保水性はないため、器に水を張る必要がある
- 細い茎や短い茎は固定しにくい場合がある
- ワイヤーが錆びると、水が汚れやすくなる
- アレンジメントを動かすと花がずれることがある
ワイヤーを使う際は、くしゃくしゃと丸めてボール状にし、器の中で少し突っ張るくらいのサイズ感にするのがコツです。これにより、器の中でワイヤーが動くのを防ぎ、花をしっかりと支えることができます。
ビー玉やおはじき、小石
透明なガラスの器などを使う場合、ビー玉やおはじき、小石などを器の底に敷き詰めて花を固定する方法もあります。 見た目も涼しげで美しく、デザインの一部として楽しむことができます。
メリット
- 見た目が綺麗で、デザイン性が高い
- 100円ショップなどでも手軽に入手できる
- 洗いやすく、繰り返し清潔に使える
- 様々な色や形のものを組み合わせられる
デメリット
- 固定力はあまり強くない
- 重い花材や大きなアレンジメントには向かない
- 保水性はないため、こまめな水替えが必要
- 石の隙間にバクテリアが繁殖しやすい
ビー玉などを使う場合は、茎が石の間に埋まるように、ある程度の深さまで入れるのがポイントです。また、水の濁りを防ぐため、使用前によく洗い、アレンジメントの途中でも水をこまめに取り替えるようにしましょう。
枝や茎
アレンジメントに使う花材の枝や、庭木の剪定で出た枝などを器の中に組んで、自然の留め具として利用する方法です。 枝を格子状に組んだり、渦巻き状に丸めて入れたりして、その隙間に花の茎を挿していきます。
メリット
- コストがかからず、環境に最も優しい
- 自然な雰囲気のアレンジメントになる
- 枝自体もデザインの一部として楽しめる
デメリット
- 安定した土台を作るのに技術と経験が必要
- 固定力は他の方法に比べて弱い
- 枝からアクなどが出て水が汚れやすい場合がある
- 思い通りの形に組むのが難しい
この方法は少し上級者向けですが、自然素材だけで作り上げるアレンジメントは、他にはない独特の魅力があります。まずはミツマタやサンゴミズキなど、しなやかで扱いやすい枝から試してみるのがおすすめです。
身近なもので代用!緊急時に役立つアイデア

「今すぐアレンジメントを作りたいのに、オアシスも剣山もない!」そんな時には、家の中にある身近なもので代用することも可能です。ただし、これらはあくまで一時的な代用品であり、保水性や衛生面で劣る場合が多い点に注意してください。
吸水性スポンジ(食器用など)
食器洗い用のスポンジも、オアシスの代わりとして使えます。 使う際は、研磨剤の入っていない、柔らかい面を使用しましょう。カッターなどで器の大きさに合わせてカットし、たっぷりと水を吸わせてから使います。
メリット
- ほとんどの家庭にあり、手に入りやすい
- 加工がしやすい
デメリット
- オアシスほどの固定力や保水性はない
- スポンジの目が粗いと、細い茎は挿しにくい
- 食器用スポンジもプラスチック製品(主にポリウレタン)のため、環境問題の根本的な解決にはならない
- 色が派手なものが多く、デザインの邪魔になることがある
粘土や苔
子供用の油粘土や、園芸用のミズゴケも花留めとして利用できます。油粘土は器の底に敷き詰めて使います。ミズゴケは、乾燥した状態で販売されていることが多いので、水で戻してから軽く絞り、器に詰めて使用します。
メリット
- 形を自由に変えられ、器にフィットさせやすい
- ミズゴケは保水性が高い
デメリット
- 油粘土は水を弾くため、保水性はない(器に水を張る必要がある)
- 粘土を使うと水が濁ることがある
- ミズゴケは長期間使うと腐敗しやすく、衛生面に注意が必要
- 固定力はあまり強くない
粘土を使う場合は、花瓶のように器に水を張って使うことを忘れないようにしましょう。ミズゴケは、特に夏場は水が腐りやすいので、こまめな水替えを心がけてください。
野菜(きゅうり、大根など)
少しユニークな方法ですが、きゅうりや大根、セロリといった水分を多く含む野菜もオアシスの代わりになります。器の大きさに合わせてカットし、竹串などで挿す場所に穴を開けてから花を挿します。
メリット
- 面白く、ユニークな作品が作れる
- 野菜自体もデザインの一部になる
デメリット
- 長持ちせず、数日しか楽しめない
- 時間が経つと傷んで匂いが出ることがある
- 衛生管理に気をつける必要がある
- 固定力はあまり期待できない
これはあくまで一時的な楽しみ方や、パーティーなどのサプライズとして試すのが良いでしょう。特に気温の高い時期は、傷みやすいので注意が必要です。
脱脂綿やティッシュ
最後の手段として、脱脂綿やティッシュペーパーを器に詰めて水を吸わせ、花を留める方法もあります。ぎゅうぎゅうに詰め込むのがポイントです。
メリット
- 手軽で、どこにでもある材料でできる
デメリット
- 固定力が非常に弱く、少しの衝撃で倒れてしまう
- 保水力が低く、水がすぐに蒸発してしまう
- 水が腐りやすく、バクテリアが繁殖しやすい
この方法は、本当に他に何もない場合の応急処置と考えるのが良いでしょう。小さな花や軽い草花を、短い時間だけ飾っておきたい場合などに限定して使うのが無難です。
各代替品の使い方とメリット・デメリット比較

ここまで紹介してきた様々な代替品について、その特徴を整理し、比較してみましょう。ご自身のスキルや作りたいアレンジメントのスタイルに合わせて、最適なものを選んでみてください。
サステナブルな代替品の使い方と注意点
剣山やワイヤーなどのサステナブルな代替品は、初期投資は必要ですが、正しく手入れをすれば長く愛用できます。
- 剣山: 器の底に置き、茎を針にまっすぐ挿し込みます。浅い水盤のような器との相性が抜群です。使用後は、針の隙間の汚れをしっかり落とし、乾燥させてから保管しましょう。錆びにくいステンレス製がおすすめです。
- ワイヤー: 器に合わせてボール状に丸め、少し押し込むようにしてセットします。ワイヤーの網目に茎を絡ませるようにして固定します。ナチュラルで動きのあるデザインに向いています。錆が出てきたら交換のサインです。
- ビー玉・小石: 器の底が見えるガラス容器などで使うと、その美しさが際立ちます。茎を挿すというよりは、石の間に茎を「立てかける」イメージです。水の濁りを防ぐため、こまめな水替えが長持ちの秘訣です。
身近なもので代用する際のコツと注意点
食器用スポンジや粘土などで代用する場合は、あくまで「一時的なもの」と割り切ることが大切です。
- 吸水性スポンジ: 器のサイズぴったりにカットするのが、安定感を出すコツです。ただし、これもマイクロプラスチックの発生源になりうることを覚えておきましょう。
- 粘土や苔、野菜: これらを使う場合は、水の鮮度に特に気を配る必要があります。水が汚れるとバクテリアが繁殖し、花の寿命を著しく縮めてしまいます。抗菌剤などを少量加えるのも一つの手です。
【比較表】オアシスと代替品の特徴一覧
それぞれの特徴を一覧表にまとめました。何を優先したいかに合わせて、選択の参考にしてください。
| 種類 | 固定力 | 保水性 | 繰り返し利用 | 環境負荷 | コスト(初期/長期) | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| オアシス | ◎ | ◎ | × | 大 | 低 / 高 | あらゆるデザインに対応。ただし環境負荷が課題。 |
| 剣山 | ◎ | × | ◎ | 小 | 中 / 低 | 伝統的な花留め。茎を傷めず水揚げが良い。 |
| ワイヤー | 〇 | × | 〇 | 中 | 低 / 低 | 自由な形にでき、ナチュラルな雰囲気に。 |
| ビー玉・小石 | △ | × | ◎ | 小 | 低 / 低 | 見せる花留めとして。固定力は弱め。 |
| 枝・茎 | △ | × | 〇 | 無 | 無 / 無 | 自然素材のみで作成。上級者向け。 |
| 吸水性スポンジ | 〇 | 〇 | × | 大 | 低 / 高 | 緊急時の代用。オアシス同様プラごみ問題あり。 |
| 粘土・苔 | △ | △(苔のみ) | △ | 中 | 低 / 中 | 形は自在だが、水が汚れやすい。 |
まとめ:環境や目的に合わせてオアシスの代わりを見つけよう

この記事では、フラワーアレンジメントで使われるオアシスの代わりになる、様々なアイテムや方法をご紹介しました。
オアシスは非常に便利な資材ですが、マイクロプラスチック問題など環境への影響も指摘されています。環境に配慮したい方は、剣山やワイヤー、小石といった繰り返し使えるサステナブルなアイテムを選ぶのがおすすめです。一方、急な必要に迫られた際には、食器用スポンジや粘土といった身近なものでも一時的に代用することが可能です。
大切なのは、それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の目的や用途、作りたいデザインに合わせて最適な花留めを選ぶことです。オアシスという選択肢だけに縛られず、様々な方法を試すことで、フラワーアレンジメントの新たな楽しみ方や表現の幅が広がるかもしれません。ぜひ、あなたにぴったりの「オアシスの代わり」を見つけて、お花のある暮らしをより豊かに楽しんでください。



コメント